2013/11/26

障害年金の社会的治癒は裁定請求段階でも認められるか。

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最近、社会的治癒に関する請求事例が多くなっています。

障害年金における病気の考え方というのは、
医学的なものとは必ずしも一致しません

例えば、うつ病を発症して一時期休んでいたものの、
治療の結果、改善されてまた働き始めたとします。
その5年後に、またうつ病で休むことになってしまいました。

この場合、医学的には「前のうつ病」と「後のうつ病」は
本質的には同じもの、または、そもそも精神疾患は
前後の傷病を明確に区別できないことの方が多いので、
精神科医として診断書を書くとすれば、
「うつ病で社会復帰したものの、5年後に再発し休職」のような
書き方になってくるのではないかと思います。

この書き方だと、どう見ても「前のうつ病」が
障害年金請求上の初診日に見えます。
しかし、実際の障害年金請求では必ずしもそうとは言えません。

前と後の疾患が医学的に同一、もしくは因果関係ある疾患でも、
そのように扱うことで請求者の利益が大きく損なわれる場合、
別個の疾患として取り扱うことがあります。
それが社会的治癒です。ただし要件がいくつかあります。

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*イメージです

この考え方は、多くの場合、医師にはご理解いただけません。

きちんと説明しても「いや、前と後ろの病気は同一だ」と言われます。
社会的治癒とは前述の通り、同一だからこそ生じる法理で、
そう扱わないのが社会的治癒です。

こうした場合、医師に修正を依頼することは不可能な方が多いので、
こちら側(当事務所)で対応することになります。

つまり「この期間は社会的治癒だと考えるので、
機構にはこのような認定を求める」ということをきちんと示します。

年金事務所の窓口はこれを受け付けない、ということはできません。
なぜならそれを認定するのは上位の部署であるからで、
実際、それをどう処理するかは窓口では判断しえないからです。

多くの場合、資料を十分に揃えて請求することができれば、
裁定請求段階でも社会的治癒として取り扱う認定を受けられます。
精神疾患はもちろん、内部疾患でも認定されています。

一度間違った請求をしてしまい、不支給となった処分へ
変更を求めていくのは、これよりも数段困難です。

障害年金請求は最初の請求がとても肝心です。

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カテゴリー: 障害年金。

2013/11/12

あるはずのない「初診」はこうして生まれる。

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最近は難しい請求が非常に多く・・・うなっています。

特に多いのは「初診が確定しない」ケースです。
初診日は大変重要なのはもちろんなのですが、
そう言われても、まさか却下されるとは・・・という方が多いですね。

これから請求される方、審査請求の方、再審査請求の方、
審査待ちの方、全ての段階でご依頼者がおられます。

未確定の要素が多く残ったまま請求して、
その中で納付要件が絡んでくるとまずNGです。
制度をまたぐ(障害基礎年金・障害厚生年金)場合についても
同様に厳しく見られます。

病気で言うとこうした経過を辿るのは、腎疾患が多いですね。
慢性腎不全(糖尿病、IgA腎症などに由来)などは、無症状の期間が
長期間経過し、ゆっくり腎不全に移行していきます。

大体皆さん、初診は健診で指摘、精密検査で経過観察となり、
翌年からは指摘はされるものの、受診はせず。
このまま長期間経過(10年とか20年)とかして、
浮腫みや疲労感などで症状が出て、ここで病院へ行かれるんですね。

病院にて

そこではおそらくDrとこのようなやり取りがあると思われます。
(D・・・医師、 請・・・請求される方)

D「だいぶ進んでますねー、今まで健診などで何も言われなかった?」

請「えーと、前に指摘されて受診したことがあります」

D「それはいつ頃のこと?」

請「10年・・・12,3年前でしたかね。はっきり覚えてませんが」

D「なるほどねぇ・・・(カルテに12年前と書きかき)。
それでは腎機能を維持していくため、今後は受診なさってください」

取れるはずのない「初診」

こうして「12年前」の受診歴が作成されます。

この間に、前の精密検査(もしくは短期間の加療)の受診記録は、
カルテ廃棄によりなくなってしまいます。
カルテの保存年限は最後の書き込みから5年だからです。
*もっと長期間持っている病院もあります

そして年金請求される時に、
受診状況等証明書にはばっちり記載されます。

12年前に他院受診。その後悪化し当院初診」

もちろん医師に悪気は全くありません。請求される方も同じです。
将来の年金の支給不支給が、このやり取りで左右されるなんて、
お互いに当時は全く思っていないはずです。

こうして帳尻合わせできない記録が生まれていきます。

医師にしてみれば「カルテに書いてある」、
請求者にしてみれば「その時期は受診していない」記録です。

その後はこうなります。

年金事務所にて

年金機構「12年前?受診状況等証明書のこの記載はなんですか?」

請「いや、ちょっとよくわからないです」

年金機構「わからないじゃ困るんですよね」

請「でもその頃は受診していないはずです」

年金機構「ふーむ」

請「その頃は転職や引っ越しなどもあってバタバタしてまして・・・
 もう当時の書類は何もないんですよね」

年金機構「そうですか・・・じゃあこれで出しますか。
    あとは本部が審査でどう見るかですので」

請「はい」

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実際は認定までに、数回書類が戻ってきたりするかもしれません。

しかし何も提出できなければ、最終的に出る結果は「却下」です。
ありもしない「12年前」の受診が理由です。

こうなってしまうとやはりなかなか難しいです。

この期間が全て厚生年金期間中であれば、そのまま認定されたり、
その後の審査請求、再審査請求で認められる可能性はあります。
その辺りは書類の集まり具合で変わってきます。
また国民年金に未納さえなければ、同じように可能性はあると思います。

しかし、ここに未納がどっさりあるとかなり状況は厳しくなります。
ですから、こうなる前にきちんと調べ尽くして請求するべきです。

たとえば社会保険審査会の裁決では「蛋白尿」や「糖」など
健診で指摘されたからと言って、それを以てただちに
腎不全の初診日とするのは不適当として、
最終的に支給を認めているものもあります。

それはこのように長期間を経過するうちに就労して、
厚生年金を長期に渡って納めた人を救済するためです。

しかし年金機構はこのような取り扱いをやめません。
「アンケート」と称して、浮腫みや口渇を覚えたのはいつか、と聞きます。

アンケートは実質「不支給」や「却下」とするための書類です。
その記載を採用して不支給の根拠とするのは
決定書でもいくつも見ていますが、支給する、としている決定は
残念ですが見たことがありません。

たとえば糖尿病と診断されても食餌療法で維持、
もしくは改善される方も多くおられます。
ですからその後改善されて長期間経過すれば、
アンケートの記載が初診になるとは必ずしも限りません。

しかしそこまできちんと説明され、また理解してから
記載している請求者はどれほどいるでしょうか。

そしてまた却下、審査請求、再審査請求が増えていきます。

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カテゴリー: 障害年金。